「さん、変わりませんね」(中略)、四年ぶりにホテルのテールームでお会いした編集者のAさんからそのようにいわれた時、わたしはみた目のことを言われたのだと思って、自然ににっこりした。 「Aさんも、お変わりありませんわ」ダーク グレイのスマートな背広姿は、四年前と変わりがなかったが、その髪にはいくらか白いものが目立つようになったなと思いながらそういったのである。 「いや、ちょうど十五分、遅刻したところがですよ」Aさんは眼鏡の奥の眼をいたずらっ子の少年のように、わざと大きくしながらわれた。私は、しばらくの間顔を上げることができなかった。 注 ダーク グレイ:濃い灰色