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その娘は顔を上げた。 涼しい 眼がくるっと敏捷に動いた。三面鏡の中で、幾つかのその同じ眼が、いっせいに克平の方を見た。(『あした来る人』) 2.入学当初、まわりの子が「どうして手足がないの?」と聞きにきたり、不思議がってボクの手を触りにきたり、洋服のなかに自分の手足をしまいこんでボクの真似をするような子が出てきた。そのたびに、先生はヒヤヒヤしていたというが、一方の母は、「本人が解決すべき問題」と 涼しい 顔をしていた。( 洋匡 『五体不満足』) 3.それでも私はこの本を読み、べつなところで、奇妙な興奮を覚えるのだ。それは、この本の著者が、何の躊躇も無く、片端から旧来の思想を破壊して行くがむしゃらな勇気である。どのように道徳に反しても、恋するひとのところへ 涼しく さっそと走り寄る人妻の姿さえ思い浮かぶ。(太宰治『斜陽』) 4.はじめからただこの女がほしいだけだ、それを例によって遠回りしていたのだと、島村ははっきり知ると、自分が厭になる一方、女がよけい美しく見えて来た。杉林の陰で彼を呼んでからの女は、なにかすっと抜けたように 涼しい 姿だった。 (川端康成『雪国』)