たとえば、「走る」ことは、一見単純で誰にでもできる運動ではあるが、「速く走る技術」となると、なかなか1 身につける ことが難しい 。教えられたように走るフォームを改善することが簡単ではないからだ。 誰でもできる運動なのに、なぜその改善が難しいのだろう。 実は、慣れている動作ほど、その動作に対する神経支配がしっかりとできあがっているからだ。運動の技術やフォームを改善することは、その運動を支配する神経回路(注1)を組みかえることになるので、そう簡単にはいかない。 コーチは、腕を振り、膝の運び方、上体の前傾の取り方など、フォームを矯正(注2)しようと指導し、指導を受けるランナー(注3)も指摘された体の動きの修正に意識を向けてトレーニングするのが普通である。しかし、動作の修正には多くの時間と繰り返しが必要であり、またその効果が上がらないことも多い。そして、トレーニングの効果が上がらない人は、「運動神経」が良くないということになる。 2 この場合 、運動技術の修正は、「運動の神経回路を修正する」ことであると考えることによって、解決の糸口(注4)がみつかる。 スポーツ技術や「身のこなし(注5)」の習得には、神経回路に直接的に刺激を与えるようなトレーニング上の工夫が必要である。 工夫をいろいろと重ねるうちに、「動作をイメージし、それに体感する」ことが、運動の神経回路を改善するのにきわめて有効であることがわかってきた。 (寛道『運動神経の科学―誰でも足は速くなる』による) (注1)神経回路:ここでは、神経をつなぐ仕組み (注2)矯正する:正しくなるように直す (注3)ランナー:走る人 (注4)糸口:きっかけ (注5)身のこなし:体の動かし方 66 「早く走る技術」はなぜ1身につけることが難しいのか。