私たちの時間の感覚は、人によって、また立場によってもかなり違います。電話でよく「少々お待ちください」と言って待たされます。 3 分待たされたとしますと、待った人の感覚ではその 3 倍、 9 分ぐらい待たされた気がします。このとき、待たせた方は実際が 3 分でも、その 3 分の 1 の 1 分にしか感じないのです。つまり待たせた人と待たされた人の時間間隔の差は( 1 )倍にもなるのです。そのことをよく承知した上で「お待たせいたしました」を言わないと、 2 お客様を不快にさせる ことになります。 本来、時間に対する日本人の感覚は、きわめて (注 1 ) 神経質だと言われています。交通機関のダイヤの正確さなどにもそれがよく現れています。 ところが、その反面、日本語の中にはきわめて曖昧に時間を伝える言葉が数多くあります。「しばらくお待ちください」「のちほどお電話さし上げます」「まもなくつくと思います」「少々時間をください」などの言い方は日常的によく使われています。 応対の中で「 3 のちほどこちらからお電話さし上げます 」と言った数人の人に、「 『 のちほど 』 というのはぐらいの時に使いますか?」と 訊 ( たず ) ねたことがあります。驚いたことに答えは 千差万別 ( せんさばんべつ ) です。 2 、 3 分、 10 分か 15 分、 30 分ぐらい、 1 時間、 2 、 3 時間、その日のうち、最大 1 週間以内と答えて人もいます。そして、「のちほど」といわれた相手の客も「のちほどってですか」と聞き返す人は 皆無 ( かいむ ) (注 2 ) に近いのです。「ではよろしくお願いします」で終わってしまいます。客の方が「のちほど」をぐらいと理解したかです。言った方に 4 それだけ幅がある のですから......。 「のちほど電話すると言ったから、出かけないで待ってるのにかかってこないじゃないか」と苦情になったこともあります。 きちんと時間のメド (注 3 ) を言う人も、もちろんいます。 5 時間のメドが立たない 時に、「のちほど」というあいまいで便利な言葉を使うのでしょう。しかし、メドが立たない場合でも、「担当がただ今席を外しておりますので、というはっきりしたお約束ができかねます。申し訳ございません」と、はっきり言えない理由を言葉で伝えてください。 また、メドが立つ場合でも、 10 分と思ったら「 20 分ぐらいまでにはお返事できると思います」。 30 分と思ったら「 1 時間以内には...」というように、 6 多目多目の時間 を伝えてください。人間の心理として、「 30 分」と言われても 20 分ぐらいから待ち始めます。 25 分も経つとイライラが始まります。 30 分に正確に返事ができたとしても、満足感はないのです。それが「 1 時間以内には」と伝えておけば、 30 分に返事が来れば「早く調べてくれたな」と思って満足してくれるものです。 (注 1 )きわめて:とても (注 2 )皆無:まったくないこと (注 3 )メド:だいたいの見当