「好きです。付き合ってください」 梅や椿(つばき)の花が咲いている。暦上での春が来たのだ。 でも、この一世一代の告白が成功しないと、僕に春は来ない。 彼女は悩んでいるようだ。沈黙が時を満たす。 雲の切れ間から春の光が差してきた。春の風が僕の頬(ほほ)を撫(な)で、彼女の漆黒の髪を遊ばせる。 こんなに、春めいてきたのに。 彼女が顔を上げた。瞳に決心の色を浮かべている。 僕は咄嗟(とっさ)に身構えた。春と冬、どちらが来る!? 「...あ、私で良かったら」 途端、僕の心の中の雪が解け、一気に桜の花が咲いた。漸(ようや)く、春が来たのだ。 雪の下に埋もれていた蕗(ふき)の薹(とう)の気分だった。